元中国大使館員の思い出

15年くらい前に中国大使館領事部でお勤めしてました

般若心経パスポート

ある日の領事部

日本在住のインドの方が中国ビザの申請に来た。出張とのこと。

バリバリのビジネスマンで、この日もパリッとしたスーツでご来館。日本語も流暢だ。

書類は問題なし。続いてパスポートの確認。

私「パスポートを拝見いたします」

イ「はい、どうぞ」

そう言って背広の内ポケットから、分厚いパスポートを取り出す。その厚さ、およそ5センチ。

なぜそんなに分厚いのかと言うと、以前のパスポートを全てホチキスで留めているから。

古いパスポートの表紙と、新しいパスポートの背表紙をホチキスで留める。その上にまた次のパスポートを留める。そうやってパスポート更新の度に重ねていく。

表紙と背表紙が繋がっているので、うっかり手を滑らせると、ベローンとアコーディオンの様に広がる。

初めて見た時は、こんな使い方していいのか、と驚いた。

こうした使い方は主に中東と南アジアで散見された。中でもパキスタン人とインド人は特に多かった。

理由はおそらくビザのためだと思われる。

彼らは入国にビザが必要な国が多い。

世界を股にかけるビジネスマンともなると、出張の度にビザが必要になり、パスポートのページがあっという間に埋まってしまう。

空きページがなくては出入国に支障があるので、新しいパスポートを作る。しかし有効なビザは前のパスポートに貼ってあるため、渡航の際には前のパスポートも持っていく必要がある。

そうして出来上がったのが、あの般若心経のようなパスポートだ。

1冊が半年もたない人とかザラだった。

出入国スタンプもぎゅうぎゅうに押してある。ある時、これってなんでこんなぎゅうぎゅうなの?と聞いたら、空港係員に詰めて押せとお願いしている、とのこと。

見慣れてくると、歴戦のパスポートって感じでカッコよく見えてくる。

大変だなぁ。

日本パスポートって便利だなぁ、と改めて思った。