神様仏様バングラデシュ様
ある日の領事部
その日私はビザ申請の窓口にいた。受け付けるのは中国ビザと香港ビザ(正確には香港入境許可証)
中国より香港の方がノービザで行ける国が多い。なので香港ビザの申請は1日3件前後と少ないのだが、これがまぁめんどくさい。
必要な書類が在職証明や預金残高証明など、申請前にしっかり準備しないとならないものばかりだ。
今日は香港ビザ来るかな〜なんて思いながら仕事をし、あるバングラデシュ人の中国ビザ申請を受けた。
中国ビザは必要書類が少ないのでサラッとチェックして終わり。今思えば流れ作業になっていたのが良くなかった。
数週間後、窓口の閉まった午後の時間にそのバングラデシュ人が再びやって来た。
通常入れない時間なのだが、インターホン越しにどうしても入れてくれ、緊急の話があるとのことで特別に許可され入館。
最初は領事が話を聞いていたが、そのうち申請を受けた私も呼び出された。
私「えっと…どうされましたか?」
バングラ「先日こちらでビザをいただきましたが、このビザでは香港に行けないと成田で言われました。さっき空港から急いで来ました。どういうことですか?」
全てを悟った。変な汗がじっとり出てきた。恐ろしいミスした。やべぇ。
香港ビザ必要な人に、中国ビザ出しちゃった。しかも飛行機乗れなくて戻ってきたとか、めちゃくちゃ申し訳ねぇし、最悪エア代出さなきゃダメなのか⁉︎とかいろいろ考えちゃって22歳の私は頭真っ白。
固まっていた私に領事が、申請書を確認して来いと言った。
はっと我に返り、書類保管室にダッシュして彼の申請書類を血眼で探す。もし渡航先欄に「CHINA」とあれば、ワンチャンこちらのミスではないことになる。まぁ今になるとその思考回路もどうかと思うけど。
果たして見つけた書類には、しっかりと「Hong Kong」と書いてあった。
オワタ…オワタヨ…謝らなきゃ…飛行機代弁償カナ…怖いよ…。
書類を握りしめてプルプルしながら謝罪会見。
私「まことに!まことに!もーしわけありませんでしたっっ!」
バングラ「いえいえ、今日香港のビザもらえれば大丈夫ですよ。良く確認しなかった僕も悪いから」
私「あへぁぁ…あんた神さまやぁぁ…謝罪感謝雨あられ…」
飛行機はすでに夜の便に振り替えたとのことで、懸念したエア代弁償はしなくて大丈夫だった。
クソめんどうな書類は、領事があとで持ってくればいいと許可をくれ、ビザは作成スタッフの中国人のおばちゃんにこれまた土下座の勢いで頼み込んでその場で速攻作ってもらった。
領事部であんなに早く出た香港ビザはかつてないと思う。
いい人で本当に良かった。
今でもカレー屋でバングラデシュ人を見ると変な汗と共に思い出す。
その節は大変申し訳ありませんでした。